閉じられた扉:脱出編
さてドアノブ自体の分解だが、
通常のドライバーで届かない位置にネジがはめ込んであるのが問題である。
私は部屋にあった小さなハサミを持ち出し、その先端をネジ穴に差し込もうとした。
しかしハサミの刃は厚すぎた。
次に小型爪切りのヤスリ部分を試す。細すぎる上に、金属が柔らかすぎてネジに力が伝わらない。
助けは呼びたくないし、暑いしあんまり時間も掛けたくもない。
もう、前蹴りを何度も叩き込んでドアを蹴破ろうとも、一瞬頭をよぎったが、
それなら、助けを呼んだほうがよっぽどコストパフォーマンスが良い。
力ではなく知恵で解決せねば…。
絶望の先に閃く、一筋の光明
私はドアに張り付くようにして、金属の表面をなぞった。もう道具はないかと思っていたが
いや、一つだけ残っていた。ふと見た洗面台においてあった、小さな金属の塊=毛抜き が目に入った。
私はそれを掴み、観察する。先端は鋭く、硬い。これを二つに開き、平らな持ち手側を重ねて力を加えれば、小型マイナスドライバーの代用品にならないか…。
実行に移す。
私は灼熱の中での孤独な外科医師となる。
手のひらから汗が吹き出し、毛抜きが滑りそうになる。
そして体内の水分が奪われていく焦りと、ネジを潰すわけにはいかない緊張で、全身が震えた。
息を止め、慎重に、しかし強い意志を込めて、毛抜きの先端をねじの溝に差し込んだ。届く。わずか数ミリだが、確かな手ごたえ。
「回れ……!頼むから……!」なんでこんな目に合わなきゃならないんだという怒りを込める。
キッと、固着したネジが悲鳴のような音を立て、徐々に動いた。
作業を進めるうちにコツをつかみ、ついにはすべてのネジが外れ、内部の錠ケースの一部が姿を現す。
露出したのは、ドアノブと連動するはずのラッチボルトの機構だった。
レバーは動いても、中の金属製の腕(アーム)がずれてラッチを引っ込められなくなっていたのだ。
私は外した毛抜きを再び道具とし、露出したラッチボルトの根元の部品を、テコのように押し込んだ。
「カシャン!」今までドア枠に食い込んでいた三角のラッチボルトが、わずかに揺れて、本来の定位置へと引っ込んだ金属音。
それは、この灼熱の監獄の中で聞いた音の中で、最も勝利的で、命綱の響きだった。レバーハンドルを押す。
今度は抵抗なく、ドア全体が「フッ」と軽く動き、外側の熱気と同時に、かろうじて循環する新鮮な空気が流れ込んできた。
私は深く息を吐き、解放された空間の前に立ち尽くした。
※ラッチボルトはこの写真の三角の部品の部分ですね。
最初は鍵の故障とおもってましたが、結果的には本来ドアノブ操作で引っ込むはずの
この三角の部分が引っ込まないために、引っ掛かりドアが動かないという事象でした。
白昼の密室劇は、誰も予想しなかった小さな道具と、
生存本能が生み出した一瞬のひらめきによって幕を閉じた。